普通に輝くOL
広登の家から直登と郁香は自宅へ、広登は花司邸へと帰っていった。


「何をずっと怒っているんだ?」


「だって・・・詩織さんがあきれた顔して私の方を見たわ。
私だって朝ごはんくらい作れるし、ひとりでずっとやってきたんだから特別な料理とかシェフなみなんて腕はないけど、普通の主婦くらい時間があれば料理は苦手分野じゃないのに、毎朝私のために食事を作ってるなんて言って・・・ひどいわ。」


「郁香のプライドを傷つけたなら謝るよ。ごめん。
だけど、ああいっておけば詩織さんは邸にもここにも来ないだろうと思ってね。」



「詩織さんの気持ちわかってたの?
前から知っていて、広登さんに譲ったの?」


「詩織さんは物じゃないよ。譲るも何も・・・。
広登に協力はしてやったけど、僕はじいさんから気になる女の子の話を聞かされて、その子のことが気になってたから・・・。」


「変なの、会ったこともない女の子が気になるなんて。」


「そうだね。会ったことはなかったけど、じいさんは君のことをずっと調査してたからね。
報告をいっしょにきいたよ。

苦学してることも、学園祭で着る服を貸してくれる人を捜していたのも・・・。
あんまりかわいそうで、僕が服を買って届けてあげたかった。」


「匿名で洋服が届いたわ・・・。だけど着ることはなかった。
着替えても相手にしてくれる人がいなかったから。」


「そうだったんだ。それでじいさんに返されたんだね。
ショックをうけてたよ。あのガンコじいさんがね。
孫に嫌われたと落ち込んでた・・・。」



「どうしてもっと早く、おじいさんは迎えにきてくれなかったのかしら。
調査してくれてるなら、呼んでくだされば直接何でも検査くらい受けたのに・・・。」


「女性の扱いが苦手な男なんだよ。
それでも妻には愛されてたんだけどね・・・。

妻がよく気の付く女性すぎて、早くに亡くした後はろくな恋愛もできずに女性に失望した男さ。
それが孫娘にもうまく接することができなかった原因。
っていうふうなことを父さんからきいたことがある。」


「男の人ってめんどくさいのね。
広登さん見ていてもめんどくさいなって思ったし、あなたも・・・。」



「僕もめんどくさくて嫌かな?
それは困ったなぁ。結婚できると思ってワクワクしてるのに。」



「どういう計画なのか、策略なのかわからないけど、愛情を確かめ合ってもいない結婚なんて所詮お芝居でしょう?
私は自分の安全のためって説得されて応じたにすぎませんからねっ!」



「愛を確かめあったらお芝居じゃない?
ああ・・・すごく楽しみだなぁ。」


「ちょ、ちょっとぉ・・・何を想像してるのよ。
私、そういうのしませんから。
同棲の契約だって・・・そういうのは同意がなければしないってことにしたはずだわ。
もうそれは守ってくれないの?」


「守ってほしいの?
僕はもう限界なんだけどなぁ。
新婚初夜まで待てるだろうか・・・なんてね。」


「し、知らないわ。もう寝ます!
こっちへ来ないでよ!」



(くくっ・・・。ほんとに郁香は・・・かわいいな。
この間の夜だって・・・寝たフリを続けるのはほんとにつらかったのに。

かわいい顔してスヤスヤ寝てしまって、キスしようかと思ったけどしてしまったら止めることなんかできなかったから眺めるだけで我慢したなんて・・・僕は小心者だよなぁ。


僕がどうして君にだけアレルギーが出ないかわかるかい?
君だけに触れたいと思っているからだよ。
そんな都合のいいことあるわけないって怒られそうだけどね。)



翌日にも高下美代子へ広登と直登は詩織の家には行かないでほしいと申し入れた。
検査結果が出て認知が終わるまで広登は花司邸で他の兄弟とともに美代子の生活を保護すると申し入れ、美代子もそれに同意した。


そこから2週間後、直登は郁香と入籍をすませ、1か月後結婚式と披露宴をすることになった。
郁香には身内がいないことや同じ職場だということで、社員を中心とした披露宴を行い、取引先には特定の招待客しか招かないことにした。


「もっと小さな規模にならないの?」


「そうだね。これでも小さくしたつもりなんだけど、僕らの社員は小さくさせてくれないんだから仕方ないよ。
手作りでやってくれる部分も大きいから嫌だなんて言えないだろ。」


「でも、困るわ。大々的にやっちゃって堂原の仕事が終わって、お疲れ様ってお別れ式なんて気が重くなっちゃう。」


「けどね・・・堂原学院の仕事は親会社がからんでることもあるし、けっこう長く続くよ。
郁香には悪いけど、郁香がどうしても他に結婚したい男でもできない限りは僕の奥さんでいてもらうつもりだ。
破局しても不振がられないと思うけどね。」


「直登さんは私と長くいてもかまわないと思ってるの?」


「ああ。いっぱい一緒に居たいと思ってるよ。」


「そ、そう・・・。」



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