普通に輝くOL
直登と郁香は広登といっしょに広登の家へと出向いた。


広登の嫁の詩織は玄関のドアを開けて、最初に直登を見てにっこり笑ったが広登と郁香には冷たかった。


直登は高下美代子についての広登の説明を信じてやってほしいと詩織に話すと、詩織はそんなこと・・・のような口ぶりで話を始めた。


「お子さんに関しては鑑定結果がすべてです。
潔白ならあの方の言葉はすべて嘘なんですから、待つしかないじゃないですか。

ただ、もしあの方のおっしゃるとおりだったとしたら、あまりにも今の生活がすべて嘘っぱちってことですよね。
私はそういうイライラを抱えて生活したくないんです。
広登が出ていかないなら、私が伊織といっしょに花司邸で暮らします。

直登さんなら許可してもらえますよね。
今ならアレルギーも出なくなったんでしょう?」


「いや、親戚付き合いという上では大丈夫だと思うけど・・・女性は郁香以外ダメダメだから。
それにね・・・僕は郁香と今、別宅で同棲していて近いうちに・・・来週あたりかな。
結婚することにしたから。」



「な、直登さんが結婚!!」


「直にいが結婚!?さっきそんなこと言わなかったじゃないか。
なんだ、やっぱり郁香から財産を自分はもらうつもりだったのか?」


「もう、やめてください!!
私にはそんなに財産はもうありません。
半分はもう寄付してしまったし、別荘も会社の保養所兼研修所になりましたから。」



「なんだと・・・何の相談もなく寄付したのか?」


「おい、広登。じいさんの遺したものはすべて郁香のものなんだぞ。
財産については、僕たちが援助を受けていた側なんだから、偉そうにいうんじゃない!

それに・・・結婚は僕が懇願してやっと郁香のイエスをもらったんだから祝福してくれ。」


「つきあってるとはきいていたけど、結婚とは・・・。」


「郁香さんにはアレルギーが出ないなんて・・・体質があうからって愛情がなければすぐにうまくいかなくなるわ。
うちみたいにひとりの女性の存在だけで、家庭が地獄になるのよ。」


「どうしてですか?
どうして地獄になると思われるんですか?

詩織さんは広登さんを信じてあげられない何かがあるんですか?
それとも、愛のない結婚をされたんですか?」


「まっ!愛のない結婚なんてしてないわ。
直登さんの体質や仕事に対する熱心さが感じられなかったことに比べたら、広登は真面目で仕事はきちんとこなしてたし、私も及ばずながら夫人としての会社への貢献はしてきたつもりよ。

でも、泣いてるからって知らない女をこの家に簡単にあげたのは許せないわ。

出張先でも廊下に倒れてた女を深夜に自分の部屋にいれた時点で既婚者の自覚がなさすぎ!

まさか広登にそんな無防備で気の利かないところがあったなんて思いたくもない!」


「広登さんだってお酒が少し入っていたんだろうし、いつも完璧な上司や夫や社会人を貫ける人間なんてありえないわ。

私は高下美代子さんがまだ隠しておられることがあるんだと思います。
バーで飲んでいた男性との話なんか、きいていませんでしたしね。」


「僕もそう思う。
広登は真面目で優しい男なのは君はわかってると思うのだが・・・。

それに高下美代子は、この家に乗り込むなんて僕たちには言ってなかった。
なのに、ひとりで突然妻のいる家にやってくるってどういう神経なんだろうって思うよ。」


「そういわれればそう・・・だけど・・・。
でも、あなただったらどうだったの?
直登さんだったら、高下美代子さんをどう扱ったと思う?」


「僕だったら・・・声だけかけて寝てると思えば、フロントに電話をしたんじゃないかな・・・。
あ、僕は女性が触れないからだよ。」


「そう、それが普通よ。
なのにうちの夫は自室に入れて介抱なんて・・・。
下心がないなんて信用できないじゃないですか。」


「うかつだったのは謝る!ごめん。
でも、僕も酒が入っていて、泣いてる人の悩み事はきいてやるのが紳士じゃないのかなんて、思い込んでしまったんだ。

ベロンベロンに酔っぱらってたわけじゃないから、記憶もちゃんとあるし、彼女には何もしていない。
それは絶対間違いないんだ!」


「それでも、今はいやっ!
女と同じ部屋に一晩いた夫の相手なんて・・・気持ち悪い!」


言葉の上で平行線のままだったので、直登は広登にしばらく花司邸で暮らすように言い、仕事の上の女性同伴のある仕事は直登と郁香で出席することにするから、広登には無理しないように伝えた。


詩織は初めは自分と伊織が花司邸で兄弟たちの面倒を見るようなことをきりだしたが、花司邸に直登が住んでいないことを知って自宅で過ごすことにしたようだった。


「ご兄弟にご飯を作ってさしあげられないのは残念だわ。
私、家事にはちょっと自信があったのに。

郁香さんは直登さんにご飯を作ってあげてお仕事もって朝が大変でしょう?」


「いえ・・・それは・・・」


「郁香は仕事をがんばるコだから、起こすのがかわいそうでね。
僕が毎朝、朝食の用意と起こしてあげてるよ。」


「まっ!!!うそっ。直登さんが朝食・・・って清登くんでもお手伝いしてたじゃないの。
そんな人と結婚して・・・本当にいいの?直登さん。」


「僕が懇願したって言ったよ。
郁香が朝からおいしそうな顔して『おいしい』って言ってくれるんで、僕も仕事がんばろう!って気になるしね。」


「そんな・・・。」


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