濃いラブコメ


五月の終わり頃のことだ。


その日の深夜、ぼくは学校の校舎に忍びこんだ。そして自分のクラスの教室でゴスロリの女装に着替え、暗い夜の校舎を歩き回った。興奮した。


昼間は真面目にメガネをかけて過ごしている校舎の中を、こんないけない格好をして歩いている。そのことにぞくぞくとした。


静寂の中、廊下に響くヒールの足音が心地良かった。


ゴスロリ服の黒色と、闇が調和して、まるで自分が夜の中に溶けこんでいくかのような、不思議な気持ちが味わえた。


屋上、プール、体育館、中庭、運動場とゆっくりとまわっていった。


最後に学校の敷地の周囲を歩いているうちに、日が昇りはじめ、あたりが薄ぼんやりと明るくなってきた。


「まずい。のんびりとしすぎた」
そろそろ教室に戻って、制服に着替えたほうがいい。
そう思ってあわてて走り出した。しかしハイヒールは走りにくかった。足元を見ながら転ばないように気をつけていると、正門近くの曲がり角で人にぶつかった。


大柄な男のひとだった。そのひとの背中に、強く衝突してしまったのだ。
ぼくはその場に尻餅をついた。
「そんなのありか」
という叫び声が聞こえた。
ぼくは凍りついた。聞き覚えのある声だった。


顔をあげると、クラスメイトの金屋武君がぼくを見下ろしていた。



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