濃いラブコメ


金屋君は、ふりむいて立ち上がった。いぶかしげにロッカーの方を見ている。落ちたハイヒールには、気付いていないようだった。
「いま、何か音がしたよな?」
金屋君が聞いた。
ぼくは返事ができなかった。頭の中が、真っ白になっていて、声が出せない。いま金屋君が少しでもこちらを向いたら、間違いなくハイヒールが見つかってしまう。急激に喉が乾く。思わず息を止めてしまう。


すると、また掃除用具入れのロッカーから、ガンッガンッという音がした。そこでぼくも振り向いた。ロッカーがわずかに揺れていた。どうやら、中に何かがいるらしい。
「猫か?」
そうつぶやきながら、金屋君はロッカーの方に歩いていった。


・・・・・・今だっ。


ぼくはハイヒールを素早く拾うと、机の奥に押し込んだ。そして静かにため息をついた。


金屋君は、揺れるロッカーを開けて中をのぞき込んだ。すると、
「うわっ!」
と大声をあげて、後ずさった。


ぼくも立ち上がると、金屋君の背中越しにロッカーの中を見た。そして、目を丸くして、息を呑んだ。


ロッカーの中には、モップやホウキに挟まれる形で、制服姿の少女がひとりしゃがんでていた。口に猿ぐつわをかまされ、体を縄で亀甲縛りにされていた。


とんでもない光景だった。


しかし、その少女の顔を見て、ぼくは、ああ、このひとか、と思ってため息をついた。


その少女は、クラスメイトの色摩美々さんだった。この学校で一番有名な、・・・・・・・・・・・・痴女だ。




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