楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
「おかえり」


鐘の音とともに店に戻ると、おじいちゃんが優しい笑顔で迎え入れてくれた。


「ただいま」


カウンターの端には、大学生くらいの男性が一人。


もう閉店時間だけど、おじいちゃんの事だからやって来たお客さんをもてなす事にしたのだろう。


「楓」


おじいちゃんは店に入ったところで突っ立っていた私を呼ぶと、その男性が座っている椅子から二つ離れたカウンターに、白いカップを置いた。


「クリスマス特製ブレンドだ」


きっと、私が戻って来ればすぐに出せるように、準備していてくれたのだろう。


笑顔を繕って引いた椅子に腰掛け、豊かな香りを放つカップに口を付ける。


“クリスマス特製”だと言われたそれを一口飲んでみたけど、その味はいつものブレンドと何ら変わりが無いように思えた。


おじいちゃんの影響でコーヒーの味はわかるつもりだったけど、やっぱり高校生(コドモ)の私はまだまだだという事だろうか。


不思議に思いながらもいつものようにミルクに手を伸ばしたところで、おじいちゃんが口を開いた。


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