楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
―――――――…
「あ、これ……」
「ん?どうしたの?」
小さな声を漏らした私に返って来たのは、低いけど優しい声音。
後ろから私の手元を覗き込んだ彼を振り返ると、柔らかい笑みが向けられた。
「懐かしいね、それ」
「うん」
「僕達が出会った日に、君がしていたマフラーだ」
懐かしむように、それでいて愛おしげな瞳がマフラーを見遣り、そんな言葉が零された。
「何だか、随分と昔の事みたいに思える」
「そりゃそうよ。だって、10年も前の事なんだから」
「あぁ、もうそんなになるのか」なんてしみじみと微笑む彼は、私が失恋したあのクリスマスの夜におじいちゃんの喫茶店にいた男性(ヒト)。
“ちょっと”失恋をした10年前のあの日の自分(ワタシ)には、既に新しい恋への出会いが訪れていて。
しばらくはあの二人を見るのがとてもつらかったし、時には涙が頬を伝う事もあったけど。
おじいちゃんがあの日言った通り、いつの間にか私は新しい恋に向かって歩き出す事が出来ていたのだ。
「あ、これ……」
「ん?どうしたの?」
小さな声を漏らした私に返って来たのは、低いけど優しい声音。
後ろから私の手元を覗き込んだ彼を振り返ると、柔らかい笑みが向けられた。
「懐かしいね、それ」
「うん」
「僕達が出会った日に、君がしていたマフラーだ」
懐かしむように、それでいて愛おしげな瞳がマフラーを見遣り、そんな言葉が零された。
「何だか、随分と昔の事みたいに思える」
「そりゃそうよ。だって、10年も前の事なんだから」
「あぁ、もうそんなになるのか」なんてしみじみと微笑む彼は、私が失恋したあのクリスマスの夜におじいちゃんの喫茶店にいた男性(ヒト)。
“ちょっと”失恋をした10年前のあの日の自分(ワタシ)には、既に新しい恋への出会いが訪れていて。
しばらくはあの二人を見るのがとてもつらかったし、時には涙が頬を伝う事もあったけど。
おじいちゃんがあの日言った通り、いつの間にか私は新しい恋に向かって歩き出す事が出来ていたのだ。