猫と宝石トリロジー ②エメラルドの絆
鷹田が昼食から戻ると、秘書課の数人が待ってました!とばかりに駆け寄ってきた。

「なんだ?どうした?」

「申し訳ありません、受付が困っていて…」

「受付?」

「はい、社長にお会いしたいという女性が騒いでいるようで…」

「本日はその様なお約束はないので、私たちではお通しして良いものかと迷っていたら…」

「女性とは誰だ?」

「はい、三条物産のお嬢様のようです」

「……わかった」

鷹田が駆けつけると、松葉杖を振り回す彼女に、もはやなだめる事すら諦めた受付の二人が『申し訳ありません』を繰り返している。

「だからぁ、謝ってないで、中に入れなさいよぉ!
蓮さんに会うまで帰りませんからぁ!」

「三条様、どうぞこちらへ」

鷹田はそう言うしかなかった。

「あーやっと話がわかる人が来たわ!」

麻未は勝ち誇った顔で受付に言って、ふんと鼻をならして鷹田の後に続いた。


「社長、三条麻未様がお見えです」

鷹田が扉を開けるやいなや、彼女は蓮の前へ突進して行った。

「蓮さん!破談てどうしてですかぁ?!」

顔を上げる前に蓮の怒りのボルテージが一つ上がったのを鷹田は見逃さなかった。

「麻未さん、お怪我はもう良いのですか?」

蓮は杖をつく痛々しい姿の彼女に同情したが、それとこれとは話が別だ。オババがどう話したのか知らないが、この話は進めていなかったのだから、破談以前の話だ。

「零華さんはグウジ?とか訳のわからない事を言って、仕方ないって言ってたんですけどぉ、私たちの間にそんなの関係ないですよねぇ?」

「麻未さん、誤解があるようです。三条社長には直接お伝えしたはずですが?」

「パパは反対してないですよぉ」

「そうではなくて……」

この不毛な会話が続くかと思うと頭痛がして、蓮はこめかみを押さえた。

「もう!!あの女のどこがいいんですかぁ!あの女は勘違いしてるから教えてあげたのにぃ!」

蓮はハッとして、睨むように彼女を見た。

「それはどういう意味だ?」

「えっ?蓮さん?」

蓮の見たことのない冷たい眼差しに麻未は一瞬 怯んだ。

「黒猫は君の仕業か?」

やはりストーカーの件と黒猫は同じ人物の仕業ではないのだろうか?
そう言えば美桜も別だと言っていたんだったな……

「黒猫ってなんの事ですぅ?そんな怖い顔しないでくださいよぉ」

黒猫の事はもう一度ディークスと話さねば。

「初花に何を教えたと言うんだ?」

「そ、それはぁ…貧乏人の彼女との格の違いを…」

「貧乏人?」

「彼女モデルになる為に家出して、事務所の社長さんにお世話になっているんですよぉ!そんな人が蓮さんに相応しいはずないじゃないですかぁ!」

その発言を聞いて、苦手だと思っていたこのお嬢様の事が蓮は大嫌いになった。

「なるほど。そもそも麻未さんとのお話は伯母が持ってきたものですが、伯母がどこの人間かわかっていてそんな事を言っているのですか?」

「どこって……」

そうだろうとも。
三条社長はどういうつもりでこの我が儘娘を送り込んだのか知らないが、調査不足だな。

「鷹田、麻未さんは大河内家をご存知ないようだ」

蓮は対応を秘書に任せて、やりかけていた仕事に戻った。

「大河内家?」

鷹田は書類から顔を上げるつもりのない社長を見て、杖を持っていない方の麻未の腕を優しく支えた。

前社長の第二秘書になった時に、大河内家の事は学んだが理解を越える件については半信半疑だった。
蓮さまにつくまでは……

「麻未様だけがご存知ないと思いますので、大河内家についてはお帰りになってお父様にお聞きください。零華様がお選びになったのですから、三条社長はご存知なはずです」

もしかすると、三条社長は都市伝説みたいなものだと軽く考えていたのかも知れないが、社長に対する零華様の態度を見れば大河内家がどれほど本気かわかるはずだ。

「ですが、社長はそもそも掟や財産などは気にせず、
初花様とのお付き合いを決められたようですよ」

蓮は書類から顔を上げずに、ニヤッと笑った。

「それに麻未様、久遠家のお嬢様である初花さまが貧乏人とは、とても思えませんが?」

鷹田は畳み掛けるように言って、麻未の腕を支えながら扉へ向かった。
初花の情報は常にディークスと共有している。

「え?!久遠家?」

「はい。初花さまは先日麻未様が入院されていた久遠総合病院のご息女ですよ」

「うそぉ!!」

「お分かりいただけましたでしょうか」

「えっ、でも!」

「社長、星夏さまからお電話です」

第二秘書からの声がして鷹田は扉を大きく開けた。

「社長は忙しいのでどうぞお引き取りを」

鷹田はゆっくりとだが有無を言わさず、麻未を部屋の外へ押し出した。




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