甘い恋の始め方
浩太に会っても良いのだろうか……友人ふたりの言葉を真に受けてはだめだと思うのに、理子はここまで来てしまった。

浩太に会うのは悠也への裏切りだ。

(やっぱり断ろう)

冷たい風が足元をすくい、理子はぶるっと身体を震わせた。

理子は手に持っていたスマホから浩太に電話をかける。

『理子さん』

「浩太君――」

『もしかしてキャンセルってことはないよね?』

「……ごめんなさい。そっちへはいけないの。友達が勝手に約束した――」

スタッフルームの横の個室のドアが不意に開き、スマホを耳にあてている浩太が出てくる。

それから浩太の視線が窓を見て、外に立っている理子に驚く。

理子は「ミューズ」から立ち去ってから電話をすれば良かったと後悔する。

『そこにいるように見えるのは幻覚かな?』

ムッとした浩太の声。

端正な顔立ちの中で、口元だけが歪んでいる。

「そう……幻覚よ……」

堪える理子の声が若干震えを帯びる。

『ここまで来てなんで急に気が変わったんですか?』

幻覚というのは全く信じていないようだ。もちろん当たり前のことなのだが。


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