甘い恋の始め方
悠也の姿はなかったが、まだ数人が廊下に残って話をしていた。

「お疲れ様でした」

理子は彼らに挨拶をして通り過ぎようとすると、山本課長に呼び止められる。

「小石川君、これから昼食に行くが一緒にどうかね?」

「ぁ……ありがとうございます。せっかくですが、お弁当を持ってきていますので」

理子は丁寧に断る。

「そうか。意外と女性らしいんだね」

山本課長は目尻に皺を寄せて笑い、他の社員と去って行った。

お弁当はいつも持ってきていない。

ひとりになって悠也のことを考えたかったのだ。

些細な嘘に罪悪感を覚え、胸がむかむかしてきた。

(なにも言わずに行っちゃったか……)

もしかしたら廊下で待っていたら……と、少しは期待していた。

会議に出ていた社員たちは部署に戻るか、昼食に出たようだ。

廊下にいるのは理子だけだった。

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