甘い恋の始め方
「もし……もし……?」

『理子さん?』

悠也だった。

「ハイ……」

理子は一瞬にして幸福感に包まれる。

『良かった。番号が違うのかと思いましたよ。俺の番号も知らせておこうと思って』

(彼は私にまた会いたいと思っているの?)

携帯の番号を知らせるのはそう意味にとってしまう。

『まだタクシーに乗っていない? エントランスから乗らなかったんですか?』

電話から雑音が聞こえたのだろうか。

「あ……は、恥ずかしくて……今、大通りのタクシー乗り場です」

『こんな真夜中に歩いたら危ないでしょう? ホテルから乗らないと知っていたら断わられても送っていったのに』

危ないと言われて、理子の心臓が跳ねた。

(本当に私のこと、気にしてくれているの?)

顔は自然とにやけてしまうのに、口ではそっけない言葉を発していた。

「もう乗りますから大丈夫です」

『わかりました。気をつけてください』

悠也の心地よい低音の声が耳に響いてから電話が切れた。

理子はスマホの画面をぼんやり見つめていたが、我に返って悠也の番号を登録した。

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