甘い恋の始め方
「おかえり。悠也」

「ただいま。康子さん」

「お腹は空いている? 用意してあるけど?」

還暦になったばかりの康子はファッションデザイナーらしく、おしゃれで着心地のよさそうなワンピースの部屋着姿だ。

「いい匂いがすると思っていたんだ」

煮物の匂いが悠也の食欲を刺激する。

「中華料理ばかりでは胃がおかしくなるんじゃない?」

「中華ばかりってことはないよ。ちゃんと和食の店もあるし」

悠也は話しながらテーブルに着く。

「食事管理はしっかりしなさいね。身体を壊したら大変よ」

独り者の悠也には耳が痛い小言だが、それも久しぶりだと心地よい。

悠也は笑いながら、里芋とイカの煮物に箸をのばした。
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