ウェディング・チャイム

 その瞬間、なぜか今までの自分が猛烈に恥ずかしくなって、目を伏せて甲賀先生の顔を見ないようにしながら言った。

「大丈夫です! 私、そんなにおこちゃまではありませんから!」

 差し出された手をスルーして、自分で降りようとしたけれど、普段の調子で足をドアの外に伸ばしても地面に届かない!


「あ、あれ? ……きゃあっ!」

 地面に足が届いたつもりで体重を移動していた私が、バランスを崩して助手席から転げ落ちる寸前、両脇腹をがしっと大きな手で支えられた。

「あっぶね~……。大丈夫か?」

「あ……ありがとうございます。ああ、甲賀先生、もう大丈夫ですから! 私、重たいですしっ!」

 まだ私を持ち上げている甲賀先生に申し訳なくて、すぐに降ろしてもらおうと思ったのに。


「全然。軽いよ。ほ~ら、たかいたか~い!」

「ちょ、ちょっとっ!! きゃあっ!!」

 軽々と私を持ち上げて、満面の笑みを浮かべているではないの!

 人気のない立体駐車場とはいえ、こんなところで何を遊んでいるんですかっ!!


「お願い、降ろして~っ!」

「今度から、人の好意は素直に受けるって約束するんだったら降ろしてやるよ」

「しますします! もう意地張ったりしません! 素直になります!」

「よろしい。じゃあ、約束な」

 そのままどさりと地面に降ろされるのを覚悟していたのに。

 甲賀先生は私の顔を見ながら、ゆっくりと、赤ちゃんを地面に降ろすように優しく降ろしてからこう言った。

「君の意地っ張りで頑張り屋なところはもちろん悪くないけど、人の手を借りるのはちっとも悪いことじゃないさ。俺は仕事も、こういう時も頼られたいって思うタイプだから、どんどん甘えて欲しい。男って本来、そういう生き物だから」

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