ウェディング・チャイム
帰りの車の中で、この時間がもっと続けばいいのにな、なんて思っていた私だったけれど。
ナビの案内する通りに運転されていたのに、行きとは少し違うルートだったらしく、窓の外には派手な建物や看板が見えていた。
こ、これは、この状況では一番意識したくない場所ではないだろうか。
考えている事がすぐ顔に出てしまうタイプ、などと学生時代から友人にからかわれている私は、どうか甲賀先生が運転に集中してこっちを向きませんように、と祈った。
だけど、そんな時に限って絶対に思い通りにいった試しがない訳で。
ちらりと私を横目で見た甲賀先生は、ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべて、低い声で言った。
「自動ブレーキの車って、こういうところの駐車場に入ろうとすると、カーテンに反応して勝手に停まっちゃう、なんていう事があるらしいぞ」
「そ、そうですか……」
「そういう話を聞くと、試してみたくならないか? 前進だと本当に入れないのか、前進がダメならバックで駐車してみたらどうだろう、とかさ」
「絶対になりません!!」
「ふうん……残念だな。藤田ちゃんも疑問に思ったことはそのままにできないタイプだと思ったんだけどさ」
「そんな疑問は持ったことがありませんから!」
「じゃあ、この疑問を解決したくなったら、いつでも声をかけてくれていいから」
「絶対にあり得ません! そんな余計な知識はいりませんってば!」
……前言撤回。こんなセクハラな知識を植え付ける人との時間は短い方がいいです。
理系の甲賀先生だから、単なる好奇心から出たネタだったとしても、このシチュエーションではあり得ない!
晩御飯もおごってくれるという美味しい誘いをお断りして、自宅へ戻ってきた。
ちょっとだけ、残念な気もするけれど、それは一食分浮かせることができなかったからであって、もっと甲賀先生と話したかった……ということではない、はず。