ウェディング・チャイム
だからここは割り切って伝えるしかないし、きっとそれを聞く甲賀先生だって気まずいだろう。
けれど、さらっと『了解。じゃあ監視よろしく!』と言って、あとは普段通りの態度で接してくれる。
それが私達の仕事なのだから。
だけど、まだ現場に入っていない彼女にとっては、それを理解することは難しいのかも知れない。
「そう、ですか……。好きな人に生理の周期まで伝えなきゃならない仕事なんて、最悪……」
心の底から嫌そうな顔をして、そう呟いた。
それはまるで、私に対する宣戦布告のようにも聞こえたのは気のせいではないはず。
だけどそれには乗らないようにして、できるだけ冷静に答えた。
「世の中、教員以外にもそういう仕事は沢山あるわ。好きな人にどう思われるかよりも、大事な子ども達を預かる仕事をする上で、どうやったら安全に指導できるかが最優先の仕事なんですよ。それに、自分が思う程相手は気にしていないはずだから」
私がそう言うと、苦虫を噛み潰したような顔をして、大崎先生が語りかけてきた。
「藤田先生は嫌ではないのですか? 甲賀先生のこと、何とも思っていないから平気な顔で伝えられるのですか?」
「あの、だから、好き嫌いの問題じゃなく、内心知られたくないと思っていても、平気なふりをして伝えるのがこの仕事の流儀なんですけれど……」
「それじゃあ、やっぱり藤田先生も甲賀先生が好きなんですね!」
何と答えたら大崎先生は納得するだろうかと色々考えて言葉を選んだつもりだったけれど、その言葉尻を捕らえられる結果となってしまった。
「いえ、ですから、ここでは私が甲賀先生を好きとか嫌いとかは関係ないですよね?」
「……わかりました。そこまでおっしゃるのであれば、藤田先生は甲賀先生のことを何とも思っていないと。そういうことですね」