ウェディング・チャイム
 
 さっきまでとは打って変わって、晴れやかな笑顔で私の顔をじっと見ている。

 そしてもうひとこと。


「良かった。それじゃあ、私のこと、応援してくださいよ~。あと実習は三週間しかないので、それまでに何とか進展させたいんです。藤田先生が応援してくださったら、きっとうまく行くような気がします」

「……」


 あっけにとられる私に対して、凄いことを言ってのける実習生の話はまだ続く。

「私、中学の頃から甲賀先生が好きでした。でも相手にもしてもらえなくて。彼女のいない今なら、私だって候補にしてもらえると思うんです。何より、一番のライバルだと思われた藤田先生にその気がないんですもの、これはチャンスでしょう?」

 その言い方にカチンときた。この仕事を舐めているとしか思えない。


「応援? 申し訳ありませんがそれはできません。あなたはここへ何をしに来ているのですか? 教育実習というのは、次の世代の教員を育てるために必要なシステムだから、実習校も指導教諭も頑張って引き受けるんです」

 はっきり言って、教育実習は指導教諭の仕事量を激増させる。

 それでも引き受けるのは、ここにいる全員がかつて、自分も指導教諭のお世話になって教育実習を受け、教員免許状を取得したから。

 その気持ちがわからない実習生が最近増えていて、教員採用試験を受けるつもりのない、免許だけ欲しい大学生は受け入れを拒否する学校もある。


「そうですか。応援して頂けないのですね。やっぱり藤田先生も甲賀先生のことが好きだからですよね。見ていたらわかりますもの」

 ああ、ダメだ……。この実習生には現場の厳しさがわかっていない。

「だからそうじゃないです!! そんな根回ししてまで実習中に接近しようという態度、甲賀先生が喜ぶとでも思っているのですか?」

「そんなの、やってみなくちゃわからないじゃないですか。藤田先生は私がそういう態度を取るのを見たくないのでしょうけれど、私には三週間しか時間がありません。やれるだけのことをやってみますから、そのつもりでいてくださいね」

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