恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


坂下さんが一緒だなんて知らなかったから、声をかけていいものかどうか悩む。
坂下さんにしたら元カノの私と話すのなんて嫌だろうと思ったから。

坂下さんが嫌な思いするのは分かっているのに、元カレはどういうつもりで私をこの場に呼んだりしたんだろうと思い近づくのをためらっていると、彼女と目が合ってしまった。

だけど、坂下さんは意外にもにっこり微笑んで手をこまねく。

他のお客さんから送られてくる視線を少し気にしながら、とりあえずワンピースを着てきてよかったと思う。
荷物整理を優先させてジーンズとかで来ていたら視線に射抜かれていたかもしれない。

元カレと坂下さんが座っている席まで行くと、まぁ座ればと声をかけられる。

「いいよ。鍵もらいにきただけだから」

退社してから会っていなかった坂下さんを見ながら、久しぶりだなぁと呑気に考える。
他の女子社員とは平和的解決ができたのかなと、余計な事まで。

でも坂下さんは女子社員とうまくいかなくても男性社員に取り入るのがうまいから、他の女子社員に嫌われてもなんとも思わなそうだけど。

「いいじゃない。車なわけじゃないんだし、荷物整理くらい酔っててもできるでしょう?」
「私、飲めないから」

そう答えると、坂下さんはああとわざとらしく笑った。

< 128 / 221 >

この作品をシェア

pagetop