恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


「んぅ……そ、いちく……ぁっ」

名前を呼ぶと、奏一くんは唇を離して、至近距離から私を見つめた。

「……ん?」
「あの……和泉くんがいるから」
「うん。だから……?」

こめかみ、おでこ、鼻先。
奏一くんの唇がなぞるように顔に押し付けられて思考回路が冷静さを失う。

もっとも、キスされていた時点でそんなものはどこかに放り出してしまっていたけど、今度は誤ってモラルだとかも捨ててしまったような感じだった。
あまりにもクラクラしてしまって。

「だって、和泉くんがいるのにこんな事……」
「莉子が言おうとしてるのは、やめろとかそういう事?」

瞼に頬、そして唇の端……。
私から全部の感情を追い払って自分だけで染めようとする奏一くんに、私の身体はいとも簡単に白旗を上げる。

途中で和泉くんがいるんだし!と頭のどこかで声はしたけど、もうそんな声に従う事はできそうもなかった。

私の唇を舌でなぞる奏一くんにもう、ハムスターとかと張り合えるくらいに心拍数が高まっていた。
じらすような行為についには我慢できなくなって私から近づいて唇を合わせると、奏一くんが意地悪に笑う。


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