恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―
空気が重たくなるのが分かって、暗い話しちゃってごめんねと明るく笑った私に、和泉くんがチラっと視線を向けた後、コーヒーに戻す。
「別に。俺が聞いたんだし。その後は?」
「その後?」
「わがままだって言われてから、おまえはどうしてたのかって」
「えっと……料理をよくするようになったかな。
一度夕飯作ったらお母さんに喜んでもらえたから、それからずっとなんとなく……」
「ずっと?」
「うん……。いつも私なんて見えていないんじゃないかって思ってたんだけど、ご飯作ってたり家事を済ませておいたりすると、褒められて……存在を認めてもらえてるみたいに思えて、安心できたから」
逆に言えば、家事をする事でしか自分を見てもらえなかったから必死だったのかもしれない。
何か喜ぶ事をしないと、お手伝いをしないと。
いつもそんな気持ちが胸の中にあった。
「社会人になって一人暮らしを始めた時、すごく解放された気がしたの。もう頑張らなくていいんだって。
家族から解放だとか思う自分が薄情だなって思ったけど……それが本音だった」
今まで友達とかにもあまり家族の話はしてこなかった。
お兄ちゃんが病気がちだなんて話すと、相手が気を遣ったりしてしまうかもしれないと思ったし、家族の話題は友達との会話の中にはあまり出てくることはなかったから。