恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


「自分が無理だと思うなら、俺から提案なんかしないだろ」

わけが分からなそうに顔をしかめた和泉くんは、本当に気にしてないのだろうか。
それとも、私との事なんて記憶からもう抹殺されてるのか。

和泉くんが平気ならそれでいいし、私との一件がなかった事になってるならその方がいい。
覚えておいて欲しいとは思わないし、むしろ私はあれからずっと和泉くんに悪い事をしたと思っていたから。

「どうする?」

返事を催促されて、伏せていた視線をゆっくりと上げて和泉くんを見た。

「もし……本当に和泉くんに迷惑にならないならそうしたいです。
行く当てがないのはその通りだし、お金の事も……そんなに貯金があるわけじゃないから、そう言ってもらえるとすごく助かる」

普通に考えたら和泉くんの提案に乗るべきじゃないのは分かってた。
だけど、ホテルなんて泊まり歩いたらお金が底をつくことは目に見えていたし、だからって居場所のない実家に戻るのは嫌で。

差しのべられた手をとっていいのかどうか悩んだけれど。
同情だとか優しさからそんな事を言ってきてくれた和泉くんに、甘えていいのか考えたけれど。

泊めてもらえると助かる。
それが私の本音だった。


< 46 / 221 >

この作品をシェア

pagetop