人知れず、夜泣き。


 「・・・木内さんの得意料理ってさ、ローストビーフじゃないでしょ?? ロールキャベツでしょ」
 
 今日、なんであの時木内が嘘を吐いたのか分かった。

 ロールキャベツはアイツの好物だったから。

 めちゃめちゃ腹減っているのに、残す気だってサラサラないのに、なんとなくガツガツ食う気になれなくて、一旦箸を止めて隣に座った木内に視線を向けた。

 「橘くんの好物って何??」

 木内はオレの質問に答えてくれない。

 「・・・ステーキ・・・だと今まで思ってたんだけど、木内さんの料理食べたら、何が好物なのか分かんなくなった。 からあげも、えびフライも、パスタも、ハンバーグも、今日のクリームコロッケも全部美味くてさ」

 木内のクリームコロッケは、こんなにも気分が沈んでいる時に食ったって、本当に美味い。

 「・・・ワタシもね、何が得意料理なのか分かんなくなっちゃったよ。 ロールキャベツは、悟の好物で何度も作って作り慣れてたから、得意料理なんだと思ってた。 でも、橘くんにお弁当作り出してから、橘くんが何でも美味しいって言ってくれるから、『ワタシの得意料理はからあげなのかも??』とか『えびフライなのかも??』って分かんなくなってきちゃって」

 『へへ』と木内が困った様に笑った。
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