彼女の世界が変わらぬ理由
彼に会えたなら。
まずはきちんとお礼を言いたかったのに。
そしてあの頃自分が、日本語を話せなかったことを伝えたかった。
桜の存在を教えてくれたとき、とても幸せな気持ちになったことも、話したかったのに。
それらすべてを押しのけて溢れてきた、涙が止まらない。
子どものように泣くことしかできなくて、歯がゆい。
安東が背中を撫でくれる。
飛田が頭を撫でてくれる。
そして森山は、マリアの手をそっと、握ってきた。
弱々しいくらいの力で。
「ちゃんと伝わったよ。キミのメッセージ」
だからほら、泣かないで。
彼の言葉に、マリアは何度も頷いた。
涙を流したまま、彼を見て、笑ってみせた。
息を吸い込み、準備をする。
十年前に伝えたかった言葉を。
十年間大切にしてきた気持ちを。
そして柚木マリアはゆっくりと、唇を開いた。
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