Bitter Sweet
6.オレ様癒し系
神戸出張から東京へ戻り、会社に報告をした後、
自分の机に溜まっている回覧書類にザッと目を通す。


すると、横から高梨がもう一つ書類を手渡してきた。

「出張お疲れ様でした。すいません、コレだけ見ておいてもらっていいっすか。」

何だろう、と思って資料をめくると、付箋が貼ってある。

『今日、マンション行くから。』

…は?

思わず眉間にシワを寄せながら高梨を見る。


「…うーん、これはちょっと、修正が必要かもね。」

他の社員もいる手前、露骨な会話は出来ない。

しかも、出張から帰ってきて心も体も疲れていたので、高梨をウチに迎える元気もなかった。


だから、そう返したのだけど、こんな…社内恋愛みたいなやりとり、久しぶりにした。

高梨はよく女の子から、こういったメモをもらってるようだったから慣れているんだろう。

でも、私と高梨の間で、仕事以外の内容では初のことで。
正直、面食らっていた。


「じゃあ、こうならどうですか?」

更に付箋に何か書き足してくる。

見ると、

『じゃあ、7時にウチ来て。拒否権はナシね。』


…拒否権、ないの?なんで?

と思いながら、

「それなら、まぁ…大丈夫かな?」

しどろもどろに答えた。


「良かった。じゃあその方向で。桃瀬さん、今日は定時上がりですよね?時間になりましたよ。」

時計を見ると確かに。

「お疲れっした。」

ニコッと微笑んで、手元にあった書類をヒョイっと持って行ってしまった。

「お、モモちゃん、お疲れ!今回助かったわー、ありがとな!」
峰さんも声をかけてくる。

「いえ、お疲れ様でした。峰さんも今日は早く帰れるんですよね?しっかり休んでくださいね?」

帰り支度をしながら、労いあう。

「有田さんも。お疲れ様でした。」

笑顔を作って、会釈をする。

「…桃瀬もな。お疲れ様。」
目線を上げて私を見た後、またすぐ書類に視線を戻した。

お互い、モヤモヤした気持ちを抱えたまま帰ってきてしまったのを感じる。



お先に失礼します、とシマのみんなに言って、私はその場を後にした。
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