甘い香りを待ち侘びて
待っていたもの


 ……何これ、有り得ない。

 悲しいのやら虚しいのやら、それとも途方に暮れているのか。
 スマホに映し出された文字を見て、ただただ溜め息が零れる。

 まだ使い慣れていないスマホの画面に映し出されたメールの文章。送り主はヒロくんだ。

 早朝にこのメールを受信した音で起こされたときは少しイラついたけど、相手がヒロくんだと分かったときは舞い上がった。
 だって、ヒロくんから連絡が来るのは久しぶりだったから。

 でも、ずっと待ち侘びていたヒロくんからの連絡を逸る気持ちで確認した今は、もうそんな明るい気持ちなんて吹っ飛んでしまった。

 未だに大きな画面に表示されたままのメールを見て、今度は深い溜め息をつく。


『エリ、ごめん。やっぱり今日、会えなくなった』


 その一文で始まる謝罪の言葉。
 なんとなくそうなるかもしれないとは思っていたけれど、「何とか会えるようにするよ」と事前に言われていただけあってショックはそれなりに大きい。

 わたしだって、それなりに期待はしてたのに……。

 一番見たくなかった謝罪の言葉の下に続く、会えなくなった理由。
 たどたどしい指使いで画面をスクロールして、それを一字一句ゆっくりと確認する。

 それは予想していたというよりも「そうなるかもしれない」とヒロくんが確信を持った声色で言っていたことそのままだった。だから余計に気分は沈んでいく。

 陰気くさい溜め息はまだ暖房のついていない部屋に、数秒間だけ白く姿を現して消えていった。


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