甘い香りを待ち侘びて


 頬を伝う雫を優しく拭われる。そして指輪を付けた薬指に口づけを落とされた。
 その様子を見て思わず呟く。


「何だかもったいないね」

「何が?」

「このハートのアメ細工だよ。アメだから、溶けてなくなっちゃうもの」


 どうやらアメ細工の部分のハートの飾りは、指輪から取り外せるようになっているみたいだった。
 飾りと言ってもアメで食べ物だから、ずっとこのままでいるわけにもいかないもんね。


「保存しておけたらいいのになー」

「わざわざ保存しなくても、ハートはなくならないよ」

「え?」

「だって俺の気持ちもエリの気持ちも、ずっと心(ハート)にある。だから、なくならないよ」


 ヒロくんは二人の胸元を指差しながらそう言った。その時の真剣な表情が柄に合わなくて、思わず吹き出して笑ってしまった。


「ちょっと、何で笑うのさ……」

「だって、なんかクサい台詞だなーって思って」

「たまにはいいんじゃない? ……クリスマスだし」


 自分で言っておきながら恥ずかしかったのか、唇を尖らせて小さく反抗してくる。その姿が子供みたいで可愛いなと思ってしまうわたしも、きっとどうしようもない。

 ……確かに、クリスマスだもんね。

 目と目が合って、そのあとは唇が重なった。
 まだケーキを食べていないのに、すでに甘いから不思議。


「――メリークリスマス」


 囁き合う、特別な日の言葉。

 来年もその先もずっと。
 あなたが甘い香りを引き連れて帰ってくるのを待っているよ。



End


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