甘い香りを待ち侘びて
どうしてヒロくんがここに……?
腕時計で時間を確認するも、ついさっき確認した時間とほぼ変わらない。
ヒロくんのお店はまだ特別営業中の時間だ。だからここに、ヒロくんがいるはずないのに……。
そう思うのに足は嬉しさのあまり、ヒロくんのもとに素早く向かっている。
わたしがヒロくんのもとに辿りつくのと、ヒロくんが立ち上がるタイミングが重なった。
「おかえり、エリ。寒かっただろ?」
わたしの頬を包み込むヒロくんの手が冷たくて、思わず首を引っ込めてしまった。
笑顔を生み出すお菓子を作る魔法の手。大事な手だというのに、すっかり冷え込んでしまっている。
「……ただいま。いつからここにいたの?」
手袋をしている自分の手をヒロくんの手に当てて、それからぎゅっと握り締めた。ヒロくんの手が温まると、包まれたままの頬もじわじわと熱を帯びていく。
「んー、30分ぐらい前かな。そんなに待ってないよ」
「そんな、十分待ってるじゃない。鼻も真っ赤だし……」
「そう言うエリは頬が真っ赤だけどな。でも、もう大丈夫みたい」
頬から離される手。一度ぬくもりを知ってしまったそこは、冷風が当たるとやっぱり寒い。
「……どうして、ここにいるの? 今日は会えないってメールを送ったのはヒロくんだよね? お店は大丈夫なの?」
「ははっ、質問ばっかだなー」
一気に捲し立てるわたしをヒロくんが笑う。
だって気になるっていうか、謎ばかりで不思議なのだからしょうがない。