甘い香りを待ち侘びて


 首を傾げると、ヒロくんは得意気に笑った。


「会えないってメールを送ったのは、エリを驚かせたかったからだよ。会えないって伝えてあるところに俺が登場したら、インパクト大だろう? それに店なら親父と弟に任せてあるから大丈夫だよ。少々俺が抜けても心配ない」

「でも……。待っててくれるならあらかじめ連絡して欲しかったよ。そうすればヒロくんをこんな寒空の下で待たせることもなかったのに」


 すっと高く伸びた鼻は真っ赤になって、繊細な指先はかじかむほど冷たくなってしまっている。

 そんな彼の姿を見たら、大切な一言が言えなくなってしまうんだ。

 ――会いたかった。

 そう思っていたのは本当だというのに……。
 あれほど会いたくて恋しかった人が目の前にいてくれるというのに、素直に喜べないのがわたしの悪いところだ。

 だって、と言うと屁理屈みたいだけれど、無理をしてまで会いに来てくれなくても良かったというのが本音でもある。

 こんな疲れた表情で笑うヒロくんを見たかったわけでもないよ。

 ヒロくんと過ごすクリスマスはきっと幸せだろうと思っていたけれど、仕事を抜けて無理をするぐらいなら別にわがまま言わなかったのに。

 そう思うくせに口にすることが出来なくて、悔しさと喜びの狭間で彷徨いながら唇を噛み締めた。


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