婚恋

不機嫌の理由は・・・

久しぶりに4人が揃うということになり
松田君がスタジオを予約した。
4人がそろって練習をするのは本当に久しぶりだった。

呉服屋の息子、藤堂君が京都から帰ってきたからだ。
これからは少しずつだが活動出来ると思うと
自主練習にも力が入る。

練習当日、久しぶりの藤堂君の姿に驚いた。身のこなしが
見るからにザ・呉服屋だった。
私よりも姿勢が良く品がある。
それなのにドラムスティックをもっていざ叩いてみると
さっきまでの藤堂君とは比べ物にならないくらいの
パワーを感じてベースを弾く手が止まってしまった。
それに気がついた松田君の突っ込みが入る。
「お~~い、は~るひ~。藤堂に見とれるのはいいけど
演奏はやってくれよ」
「だって・・・ちがうでしょ~~おかしいでしょ~~。
ドラムスティック持っただけで人格変わってるし・・・」
周りからドッと笑いが飛ぶ。
・・・・懐かしい。
だけど例外が一人・・・

無表情の陸はなぜか会話には参加せず別の方を見ていた。

ブースの外・・・
そこには百恵さんの姿があった。
時折ムースの外の彼女に向けて笑顔を向けたりしている。
私たち3人は見てないふりしかできなかった。

以前よりもかなり親密に見える陸と百恵さん。
だけど私には関係ない。
ちょっと前に松田君から聞かされた
陸が私の事を好きだと言った事・・・・

どうみても違うでしょ・・・・・

今日の2人の様子を見れば松田君の言った事が
単なる勘違いだって事わかるはず。
でも・・・
どうしてだろう。
2人を見てると気持ちが暗くなる。
胸の奥に何か重い何かを落とされたそんな気持ちになる。
だから極力見ないようにした。

なんで2人を祝福できないんだろう。
陸に百恵さんが合わないから?
陸は今まで特定の彼女を作らなかった。だから本当の意味での
初カノが百恵さん。
それが嫌なの?
自分のモヤモヤの原因がわからないまま
2時間の練習はあっという間に終わった。

練習の後、帰りに久しぶりに飲みに行こうと誘われたが断った。

みんなと逆方向へ歩き出すと
誰かの足音が聞こえてきた。
「春姫!」
振り向くと陸がいた。
「・・・どうしたの?」
「俺のせい?」
「え?」
「お前の不機嫌の原因・・・」
どうしてこういう時だけ直球なんだよ・・・
「久しぶりの練習で疲れただけ・・・」
陸の目は疑っている様だった。
「あ・・あのさ・・・も・・」
「彼女待ってるよ。・・・早くしないと誤解されるよ。」
何かを言おうとしていた。
陸の言いかけた言葉・・・きっと百恵さんの事を言おうとしていたんだろうけど
全身から拒絶反応が出た。
どうしてか自分でもわからないけど、
陸の口から百恵さんの事を聞きたくないと思った。

陸はまだ何か言いたげだったがそのままみんなの所へ戻っていった。

私何がしたいんだろう。
どうしたいんだろう。

自分の気持ちにも気付けない・・・いや気付くことを
拒んでいる以上答えなんか見つかるはずなどなかった。
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