婚恋

恋って苦しいもの?

鍵を開けて家に入ると家の中は真っ暗だった。
まだ両親は店にいるのだろう。
両親がいない事にほんの少し安堵した。

正直今、自分の顔を誰にも見られたくなかった。
涙でぐしょぐしょで鼻水も半端なく出てくる。
私はバスルームへ直行すると
バスタブにお湯を入れた。
何となくここから離れたくなくて
蛇口から出るお湯をぼーっと見ていた。

このお湯の様に何もかも洗い流してくれたら
きっと楽なんだろうな・・・・

自分で望んで引き受けた事だった。
好きだと気付いたから短い間でも一緒にいられるなら身代わりでもよかった。
私じゃない別の人を重ねていてもいいと思った。

でもこんなにも苦しいものだとは正直思いもしなかった。
どんな優しいしぐさも言葉も・・・・
全ては私へ向けられた本心ではないのだから
人間は我儘だ・・・
なんでも都合よく考える。
考えて自分の置かれている立場を時々忘れてしまう。

いや・・・忘れるんじゃなくて
忘れたふりをしている。
今の私の様に・・・そしてその事を時々思い出し
そして落ち込む。

恋ってこんなに苦しいものだったのかな?
いくつかの恋愛を経験したが
こんなにも苦しいと感じたことはなかったと思う。
それって今までの恋は本物じゃなかったって事?
本当の恋って言うのはもしかして心を抉られる様な
苦しみも伴うものだろうか・・・・

後3日で私はウエディングドレスを着て陸の横で
偽の花嫁を演じる・・・・
しかもそのドレスは百恵さんが着るはずのものだ。

冗談じゃない。
何でここまで惨めにならないといけないのよ。
どうせ・・どうせ・・これが私の最後の本物の恋なら
自分の思う様に終わらせるべきよ。

私はお湯を止めると
一旦風呂から出てスマホを取り出した。

「もしもし」
「もしもし・・あら春姫ちゃん。どうしたの?」
「藤田さん、お願いがあるの・・・」 

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