婚恋

式の前日

普通の花嫁さんて、きっと挙式の前日なんか
今まで育ててくれた両親と独身最後の日を特別な思いで過ごしているのだと
思う。決して私の様に焦ってはいないんだろうな・・・・

結婚式を明日に控えた私は目の回る様な忙しさに追われていた。
自分の結婚式のブーケや装飾を自分でする花嫁がいただろうか?

朝からお店には出ず、一人黙々とブーケを作っていた。
するとポケットの中のスマホが着信を知らせた。

電話の相手は藤堂君だった。
「もしもし?・・・どうしたの?」
松田君とは定期的にメールや電話のやり取りをしていたが
藤堂君からは珍しかった。
「いや・・・明日結婚式だろ・・・でも春姫って結婚式の
花の仕事受けてたんじゃないかなって思いだしてさ・・・」
「そうだよ。明日、午前中に挙式でしょ?だから今日夜には装飾用の
 お花のセッティングに行かなきゃならないし、ブーケも作らなきゃで
 かなりハードなんだ。」
「だよな~~」
それから少しの沈黙が続き
「わかった。装飾用の花の搬入って何時?」
「え?・・・一応夜の9時にってお願いしてあるけど・・・どうして?」
「その仕事俺らにも手伝わせてくれよ」
思いがけない言葉に驚いて言葉がすぐには出てこなかった。
「・・・え?でも藤堂君だって仕事あるでしょ?」
「何言ってんだよ。春姫と陸の結婚式だろう?一応さ・・・
 だから俺と松田で手伝いに行くよ」
「藤堂君・・・・ありがとう!」
もっと気の利いた言葉が言いたかったのにありがとうしか出てこなかった。
「いいって・・・それよりも今日はダッシュでやるよ。じゃないと
明日目の下にくまが出来るぞ!俺はそんな花嫁なんか見たくないからな」
言い方は厳しいけど藤堂君なりに私の事を心配してくれているようで
胸の奥がじわっとあたたかくなるのを感じた。

電話を切ると
私は少しでも作業が楽になる様、一生懸命ブーケとブートニア作りに取り組んだ。
本当はティアドロップ型のブーケにしようと思っていた。
カサブランカとバラとカラー・・・それにグリーンを足して印象付けようと
思ったのだけれど
藤田さんから借りたドレスがアンティークだったので
急遽、プリザ―ブドフラワーに変更した。
ラウンド型で白をベースにした配色だ。
微妙な色の変化でアンティーク感が出るよう
バラの花を何色が用意して作った。
コロンコロンしたまんまるいブーケは
自分で言うのもなんだけどとてもかわいらしいものだった。
かわいすぎる感も少々あるけど
あのドレスにはこれくらいのかわいらしさがちょうどいいのか
と思った。

本当の自分の結婚式じゃないけど
それでも参列した方々に、よかった。素敵でしたと
言われたい。

でも・・・ブーケトスってやっぱりやるんだよね。
私も一応独身なんだけどな・・・
これ・・・結構力作だから・・・
自分で投げて自分で受け取るのはありなのかな・・・なんて
思ったりもした。
続けてブーケに使った花を使って陸のブートニアを作った。

私がブーケとブートニアを作っている間
両親も装飾用のアレンジメント作りを手伝ってくれた。
ここである程度作って出来上がったもの搬入。
そこでもう少し手直しをする予定でいた。


夜の8時半ごろ約束通り
松田君と藤堂君が手伝いに来てくれた。
父と一緒に花を車に積み込みてきぱきと動いてくれた。
会場には遅い時間にも関わらず藤田さんも駆けつけてくれて
準備は順調に進んだ。

8割がた出来上がって一息ついた頃
「春姫・・あんたは先に帰ってなさい。残りの作業は
私とお父さんでやるから・・・」
私の事を気遣っての事だけど
明日が忙しいのは私だけではない。
ここにいるみんな同じだ。
自分だけ先に帰ったってゆっくり眠れるわけがないし、
今回の事で両親を始め藤田さんや松田君、藤堂君にも迷惑を掛けた。

「ちょっと・・・聞いてくれる?」
私の一言でみんなの手が止まった。
私は深呼吸をすると頭を下げた。
「今回は本当にご迷惑かけてしまって申し訳ありませんでした。
 明日は友達の陸のために精一杯花嫁役頑張りますので
 ご協力お願いします。・・・そしてお父さん、お母さん。
本当の結婚式じゃなくてごめんね・・・」
父も母も首を横に振りながら優しく微笑んでくれた。

あ~~本当は、今まで育ててくれてありがとうと言いたいところなんだけどね。

結局、みんなから明日の化粧ののりが悪くなるから早く風呂に入って
寝ろと言われ無理やり帰された。

まさか、私が帰った後に陸が来るとは知らずに
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