婚恋

脈ありだけど・・・


「ねぇー。次はさ・・・陸のお手伝いをするよ。」
飲み会が終わり居酒屋の前で百恵に話しかけられた。
「手伝いって…どうすんだよ」
「とりあえず、いきなり私が登場するのもなんだから~
まずは陸の友達に私を紹介してよ。あんたバンドやってんでしょ?」
「・・まあな・・・」
すると百恵は口角をぐっと上げ俺を覗き込み
「じゃあ・・・近いうちにセッティングするからね!」
そういうとまたあのお嬢様スマイルに戻って腕を組んできた。

するとさっきの飲み会で1度も百恵に話しかけなかった有村が
俺達の方にやって来た。
俺は慌ててお辞儀をすると
有村は躊躇いがちに頭を軽く下げた。
「百恵・・・」
「・・なに?有村君」
百恵も百恵で本当はうれしいはずなのに表情一つ変えずにいた。
こいつ女優かと思うほどの演技力に感心してしまったほどだ。
「あ・・いや・・・いい彼氏が出来て・・よかったな」
んん?何か本当にうれしいとは思っていない感じがするぞ?
「うん!素敵でしょ?陸・・彼ねバンドのヴォーカルやってるのよ」
俺の歌なんか聞いたことないくせに・・
「そうなんだ・・・陸君だっけ、百恵の事よろしくお願いします。」
いきなり頭を下げられ、一瞬困惑してしまった。
だって凄く悲しそうな顔してるじゃないかよ・・・
「俺みたいなのでいんですか?」
その言葉に百恵の方が驚いていた。
だが俺は有村の顔をじっと見た。
絶対迷いがある。
でもこの男はこんな顔しておいて
「良いも悪いも俺が決める権利はないし俺は百恵が幸せになってくれる事がー」
何、綺麗事言ってんだよ!って言いたかったが
百恵が泣きそうな顔していたのを見てそれ以上の事を言うのをやめた。

帰り際
案の定百恵に怒られた。
なんであんなこと言うのかって・・・
だけど俺は謝らなかった
「百恵さ~死ぬ気で頑張ってみたら?あの有村って男・・」
「え?」
「さっきは何となく脈がありそうだったから一言言ってやった。
だけど隕石が落ちてきそうな大事件でもない限り・・・大変ちゃー
大変だわな」
「・・・・・・・」
百恵は何も言わなかった。

でも何でかこいつの恋を応援したくなった。
百恵がうまくいけば自分の恋もうまくいくのではないかと
思えてしまったからだ・・・・


あの飲み会から1週間が経った。
またしても百恵からの招集だ。
しかし今回の主役は俺らしい。
予定通り直球勝負ではいかず外堀から攻めるとの事。
それで俺は松田に電話をした。
彼女が出来たから紹介したいので一緒にのまないかと・・・
松田は少し考えていたようだが
OKしてくれた。

その事を百恵に報告したら
私に任せてと言ってきた。何をたくらんでるのか
さっぱりわからないが
とにかく一度乗った船は下りられない。ここまで来たら行けるとこまで
行ってやると決めた。
だがまさか・・・その最初の1歩で俺は心が折れそうになるとはこの時
思いもしなかった。
 
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