婚恋

最初の依頼

会って数時間で俺は、百恵の偽の彼氏にさせられた。
多分あの勢いで頼まれたらどんな男も首を縦に振らざるを得なかっただろう。
それぐらいの色気・・ではなく威圧感さえ感じられた。
要するに必死なんだよな・・・こいつも

俺はと言えば春姫の事を好きなのに友達期間が長すぎたのと
いまさら好きと正面からぶつかる勇気もないというか・・・
ヘタレもいいとこだ。
結婚がダメになった春姫の力になれるのは自分しかいないとか
勝手に思い込んで駆けつけたはよかったが
思いが腹の底から湧き出てきちゃって、春姫の事など考えもせず
勢い任せてキスしちゃって・・・
しかもその後のフォローも何もできないくせに
心のどこかで春姫の結婚がダメになった事を喜んでいた。
案の定俺が何度か電話をしたが出るはずもなく・・・
気がつきゃ~1年もたっていた
全く最低だよ。


渋々引き受け俺たちは取り決めを作った。
一緒にいるときはとにかく彼氏彼女として演じる事。
不必要に会わない。
軽いボディータッチはOKだがそれ以上はしない。
お互いの頼みは極力協力する。

・・・ほとんど百恵の考えだ。
気がつけば日付が変わってた。
その日はお互いの連絡先を交換し、解散した。


それから2週間後電話が来た。
これが俺の偽の彼氏になって初仕事だ。
地元の仲間との飲み会に俺を紹介するらしい・・・・
正直こういうのが一番面倒くさい。
愛想振りまくのは得意じゃない。
バンドのライブでもMCはほとんど松田に頼んでたくらいだ・・・
でも・・・引き受けた以上行くしかない。
俺は、「了解」とだけメールで返した。

そして当日、打ち合わせをしたいと言うことで
少し早めに近くのカフェで待っていた。
そこで俺は再び固まった。
もちろん百恵に・・だ
今日で会うのは2回目だが何処をどう見ても
お嬢様だろ?・・・その格好は・・・
「何よ?」
不機嫌そうに俺を見るとアイスコーヒーのストローに口をつけた。
「いや・・・前と全然イメージ違うからさ・・・本当はどっちよ」
「・・・こっちって事にしておいてよ。有村さんの前ではいつまでも
かわいい女の子でいたいもん。」
ワンオクターブも高い声で話す百恵に空いた口がふさがらなかった。
「・・・お前・・やっぱ怖いわ」
「どうとでも言って。私はこのキャラで通すよ。陸の彼女役でも
このキャラでいくからよろしくね!」
もうここまで来たら頷くしかなかった。

そして百恵の彼氏として飲み会に参加したが
百恵を2回も振った有村という男はスーツの似合うイケメンだった。
これは・・・百恵も大変だと同情さえした。
誰にでもやさしくする癖の悪さが気にはなったが
本人はそれをわかってな。
そう無意識なんだよ…あれは罪だ・・・

百恵は必要以上に俺に甘えたふりをしてきた。
完全に見せつけてる感たっぷりでね・・・
俺はそれに必死に付き合っているのだが
どうも百恵には不服な点が多く何度か足を蹴られた。

百恵を2回も振ったくらいだから百恵なんか眼中にも入ってない
と思っていたが、飲み会の間何度も視線を感じた。
百恵にじゃなく俺・・・まるで俺に対して敵意を向けている様な・・・
もしかするとこの作戦案外いい方向に行くのではと感じた。
だけどその事はまだ百恵には黙っていようと思う。

俺だって・・・何とかしてもらいたいからな・・・ 
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