ハリネズミの恋
「霧ヶ峰くん」

針井に名前を呼ばれた。

さっきの不安そうな、悲しそうな顔をした彼女はいなかった。

その代わりにいたのは、安心したような、嬉しそうに笑っている彼女だった。

ピンクの唇が動いて、
「ありがとう」
と、音を発した。

――ありがとう

たった5文字の言葉なのに…何だろうな?

嬉しいような、くすぐったいような…それでいて、ちょっと恥ずかしいような。

今まで体験したことがないような気持ちが、俺の胸をくすぐっていた。
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