腕枕で眠らせて*eternal season*



「その日の夜中、物音がして目を覚ますと、美織が部屋のすみっこで泣きながら絵本を開いてるんですよ。
ビックリして『何してるの?』って聞いたら『人魚姫が幸せになりますように』って泣きながら絵本を見せてくれて…」


そこまで話して、母は懐かしそうに目を細めてわずかに私の方を見やった。


「ふふ、絵本中にシールを貼ってたんですよ。大切にしていた宝物のキラキラのシールを、人魚姫の周りいっぱいに。
『人魚姫が可哀想だから、美織のシール全部あげるの。キラキラで幸せにしてあげるの』って言ってね」


……あ…。


微かに、記憶が甦る。

キラキラのシールで埋め尽くされた人魚姫の姿が、おぼろげに頭に浮かんだ。



「……紗和己さん。親の欲目かも知れないけれど、私はその時、この子はなんて優しい子だろうって思ったんですよ。

きっとこの子は大きくなったら、とても優しくて、そして、少し傷付きやすい女の子になるんだろうなって」


「……お母さん……」


「そうしたら本当にね、幾つになっても親が心配するくらい繊細な子に育ってしまってね。
…私も主人も、いつも言っていたんですよ。美織の旦那さんになる人は美織に負けないくらい優しくてあの子を泣かさない人じゃないとね、って」



そう言って紗和己さんに向かって微笑んだ母の姿に、胸がぎゅうっと締め付けられた。


ああ、私、馬鹿だ。



「昨日も遅くまで主人と話していてね。美織は大丈夫かなって。あの臆病だった子が私たちの手を離れてやっていけるのかなって」



私、本当に馬鹿だ。

熨斗だなんて。押し付けられるだなんて。

何言ってるんだろう。



「でもね、今日あなたと一緒の美織を見て、私も主人も安心しました。

ああ、ふたりで強くなっていく覚悟があるんだなって。

…紗和己さん。あなたならきっとこの子を強くしてくれるんだろうなって、私も主人も、とても嬉しく思ったんですよ」


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