揺れる恋 めぐる愛
「もういいです。でもその時学習した。やっぱり無理だって……」

「いや、無理かはやらないとわからない。

お前は失敗が怖かっただけ。今でもそうだろう?」

「どういう意味ですか?」

「一度失敗したらもうやらない。臆病者だ……」

「そんなことはないです。人間誰だって何度も失敗して傷つきたくない。

慎重になって当然じゃないですか?」

「石橋は叩きまくったら崩れるぞ。

時には駆け出してみることも必要なときがある。

でもお前は全部逃げ腰だ。たまには飛び込んでみろ」

「……主任は何が言いたいんですか?」

怪訝そうな顔をする私にすっと視線を向け、

主任は足元にある落ち葉を拾い、それを握りつぶした。

手を開くと粉々になった葉が風に流され手から零れ落ちる。


「昔、俺は踏み込む前にほんの一瞬躊躇しただけで

目前が崩れて全て終わった。だからもう迷わない……

欲しいものは全力で足元が崩れようと踏み込んで手に入れる」


その決然とした言葉はすっと心に入り込む。

主任の手に入れたかったものはいったい何なのだろうか?

そんなことを考えていたら、身体にあの違和感を感じた。

主任は私の手を力強く握り、黒い瞳で射すくめる。

「もう踏み込んでる。

その気がないなら……

逃げろ」

しばらくその手を離すこともできず、

私はただ主任の目眼差しに囚われるしかなかった。
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