モントリヒト城の吸血鬼~一夜話~
「…もう、朔夜でいいです。」

あの時点で、彼女の中では
すでにすっかり朔夜、という
名前が浸透してしまっていたらしい。

この半月、姫乃は朔夜を
呼ぶときには必ず朔夜、と
呼びかけて途中で
言いなおすのを繰り返した。

約束を守ってくれるのはいいが、
名前を呼ばれるたびに
いちいち律儀に訂正されると、
鬱陶しくて仕方がない。

「あら、でも、嫌なんでしょう?
大丈夫よ。ちょっと、つい、
朔…じゃない、ノークスじゃない方で
呼びかけちゃうけど、
ちゃんと気をつけるから。」

そういってひと月が経っても、
姫乃の呼び間違いは減ることがなく。

結局、最後まで約束を
守ろうとした姫乃も、
朔夜の再三の説得で
沙羅と同じ呼び方にもどった。

ちなみに凍夜はとうぜん
朔夜の言うことを聞くわけがなく、
ずっと朔、と呼び続けている。
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