jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
「香さん、わたし、香さんと結婚できてよかった・・・・・・」
香さんは、いつものように、わたしの涙を親指で拭った。
「僕もだよ。もう泣かせたりしない」
再び、強く抱き締め合った。
(あぁ、香さん・・・・・・好きっ・・・・・・)
このまま、時が止まって、固まって、銅像にでもなってしまいたい気分だった。
それが、何のシンボルになるかは、想像もつかないが・・・・・・。
そんな中、携帯電話が鳴った。
聞こえてきたのは、秀斗の声だった。
秀斗のことは大切に思っているが、気持ちは親友だ
(たぶん、わたし、秀斗と結婚していたら、悪女になってた・・・・・・)
香さんと結ばれなかったら、そんな人生を歩む運命だったのだろう。
また、それも、その人の1つのステージでもあるが・・・・・・。
人間は、幸せを追い求める動物だ。
ノーマルな衣食住だけで満足できない人が、ときめく新鮮な恋、燃えるような情熱的な愛を味わう・・・・・・このテイストは、計り知れない快感をもたらす。
行動には出さない人でも、心の中はきっと欲に満ちている。
マッチの火が、ロウソクに移り、宙づりになった欲望の糸に着火すると、徐々に進んで、最後には爆弾に火が付く。
「決定なんですね・・・・・・分かりました・・・・・・お世話になりました・・・・・・」
電話は数秒で終わってしまった。
秀斗の顔は、絶望の色に染まっていた。
わたしは心配になって、秀斗の元へ駆け寄った。
「どうしたの? 仕事のことで、何か言われたの?」
いつも快活な秀斗からは、予想もつかないような表情だった。
だけど、わたしは1度、それを目にしたことがあった。
わたしが、別れを告げたときだ。
(ごめんね、秀斗・・・・・・)




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