jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
あの香さんが、自分自身で、はっきりとピリオドを打てるはずがない。
寂しがり屋は事を曖昧にして、誤魔化して、明確にジャッジを下すことを恐れる。
そう、わたしと同じ。
きっと、わたしたちは似ているんだ。
だけど、何を言おうと、これはわたしの推測で、真実はどうなのか分からない。
わたしは自分のことを心の中で憫笑した。
(可哀そうなわたし・・・・・・)
そう嘲るしか、慰める方法は見つからなかった。


有難くもないのに、お婆さんに無意味にお礼を言って、餌を受け取り店を出た。

霧雨はいつの間にか、本降りへ変化していた。
わたしの気持ちに比例するかのように。
洗い流そうと慰めてくれているのか、更に追い打ちをかけようと鞭を振るっているのか、夜空から降る雨に問いかけたが、彼らは黒くて、ただ無言だった。
戻っても香さんに合わせる顔がない。
そう思うと、涙が溢れてきた。
わたしにとっては大きな意味を持つ涙も、雨からしたらちっぽけな水滴なんだろう。

『jack of all trades』
少し離れた場所から窓を見ると、香さんは店内にいた。
警察官とは別に、もう1人増えていた。
扉越しに辿り着いたのに、いつものように。
だけど、今のわたしはあなたに会えません。
今は名も無きポストの横に、マロンの餌を置きざりにして、わたしはこの町を出た。



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