jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
I LOVE YOU
志音と別れてから、2週間ほどが経った。
それでも、まだまだ涙は止まることを知らなかった。
止め方を忘れてしまったのかもしれない。
思い出に浸って嗚咽を漏らしたり、無念に打ちひしがれて号泣したり、わたしの涙は忙しかった。
それぞれ強さとリズムは違っていても、血涙を絞っているのには変わりなかった。
どんな哀れな姿であれ、決着はついた。
だけど、まだ香さんとは会っていなかった。

そんな中、珍しく秀斗から電話が入った。
「もしもし? 秀斗どうしたの?」
「いや。 大したことじゃないんだけどさ。蕾、元気かなって思って。久しぶりに、食事でも行かないか? 安心しろ、食事だけさ。約束する」
秀斗の声を懐かしく感じてしまうわたしは、きっと彼に頼ろうとしている。
心に隙間が空いたから、傷付いたから誰かで埋めようとするなんて、最低だ。
だけど、これ以上、自分を責める気力はもう残っていなかった。
「分かった」
今日の夜8時に、街のレストランで食事することになった。
日曜の夜はもう、何の予定も入ることはなかった。

前の席に座った秀斗は、前よりも少し痩せているようにみえた。
やつれているとまではいかないが、頬がシャープになっていた。
「秀斗、痩せたよね。 羨ましい。ダイエットしてるの? わたしは太る一方だから、そのダイエット法を教えてよ」
「振られても大好きな人のことを毎日考えて生活するって方法」
秀斗は全く嫌味を感じない柔和な笑みを浮かべて言った。

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