プリーズ・イート・ミー
「えええ! 桐谷さんって、あの桐谷課長?」


コクンと頷く。
と同時に今朝の恐怖心を思いだし、「わぁっ」、と声あげて顔を両手でおおった。


「もう、どんだけ怖かったことか……」


桐谷さんは、わたし達の上司。

たしか歳は33。
海外勤務を経て4年前に帰国後、現在はうちの課の課長をしてる。

仕事ができる人だというのは、そばで見てりゃ、そりゃもうよくわかる。

だけどわたしはちょっと……いや、かなり苦手だ。


これはわたしの被害妄想かもしれないけれど、桐谷さんはやけにわたしに厳しい。

同じミスをしても、杏里ちゃんには「次から気をつけろよ」ぐらいしか言わないくせに。

わたしなんて、この前、提出した書類を投げ返された上に、「お前、バカか?」って、フロア中に響き渡るような大声で怒鳴りつけられたんだから。

まぁ、入社1年目の杏里ちゃんと比較してもしょうがないんだけどさ。
でも他の女子社員と比べても、わたしにだけ言いたい放題言ってる気がする。

あ……なんか、思い出すだけで胃がキリキリと痛くなる。


「でもぉ……その夢、なんかエロくないですかぁ?」

「んぐっ」


杏里ちゃんがとんでもない発言するもんだから、ハンバーグが喉につまるかと思った。
ゴホッゴホッと咳払いをしてから、水を一口ゴクリ。


「エ、エロい? なんで? どこが?」


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