雪の足跡《Berry's cafe版》

 八木橋が私を抱いた夜。


「それ。ヤギに連絡してからと思ったんだけど珍しく携帯つながらなくてさ」


 酒井さんは仕方なく無許可でヤギの部屋を使った、と言った。


「ヤギもさ、スクール終わってから何処に行ってたんだかさあ、日付が変わる頃帰って来て、カップ酒を一気飲みして、はい、お開き!って」


 八木橋が合コンに参加したって、ただ単に部屋で合コンをやってたから?? じゃあ地元のコを送ったって言うのも?


「俺さ、あの日酔っちゃってフラフラで、ヤギが女の子送ってったんだよ。雪結構降ってたし夜中だったしさ」


 ヤギって美味しいとこ持ってくよ、俺が情けないだけかな、と酒井さんは笑った。そして、気を付けて帰ってね、今度こそ合コンしようね、と見送ってくれた。

 車に乗り、県道を下りる。事故の処理はとっくに終わっていて跡形は無かった。高速に乗り、自宅に着いたのは昼過ぎだった。車を降りて玄関の前に立つ。深呼吸をする。ドアを開けようとすると勝手に開いた。中から母が押し開けていた。


「た……」


 母は心配そうな顔をしていた。


「ただいま……」
「ユキ」


 ほらほら、上がりなさい、と笑って迎えてくれた。泣いたり嘆いたりするのかと思った私は拍子抜けした。無断ではないにしても娘の外泊、平然としているのは女親だからだろうか。母はお昼はまだ?、と言いながらキッチンに行く。私は、まだ食べてない、と返事をして母の跡を追う。

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