雪の足跡《Berry's cafe版》

 私は自分の気持ちには鈍感なんだと知らされた。本を眺めている母を見ながら、私ならトリュフにする、と妄想していた。八木橋は生クリームたっぷりの甘いタイプが好みだと直感した。勝手な直感。そういえば元カノもチョコをプレゼントしたりしたんだろうか。

 仕事帰りにショッピングモールに行く。どこもかしこもバレンタインモードで、菓子の詰め合わせや手作りキッドが並ぶ。好きな男の人に作ることすら出来ない自分を嘆いた。

 ふと、目に入った表題、本。


『大人の彼に贈るチョコ』


 見出しに「シックなデコレーションで大人らしさを演出」とか「ラッピングにピンクはNG」とか書かれていたけど、一番興味を引いたのは「洋酒、日本酒を入れて大人の味を出す」だった。


「ふうん」


 なんとなく美味しそうだった。お酒を入れたらおつまみにもなりそうだし、自分で食べてみたいと思った。本をペラペラとめくり、材料に目を通す。そこに記載されていたのは父が好きだった日本酒の銘柄だった。多分、水のようにサッパリとした日本酒ではチョコの味に負けてしまうのだと思う。私はその本をレジに持って行き、会計した。ついでに材料も買ってから自宅に戻った。

 材料の生クリームを冷蔵庫にしまうと、母が作る気になったの?と私をからかう。私は自分用だと思いっ切り否定した。なのに、焼き菓子は2、3日置いたほうが味が馴染むからユキは前日に作りなさいね、キッチンは空けとくから、と段取りされた。


「今週は毎日残業でしょう?」
「月初だからね」
「ほら、土曜日しか作る時間ないじゃない」
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