雪の足跡《Berry's cafe版》

「うまい」
「か、カツ丼が?、ブラウニーが?? ねえ、嫌味?」
「アホ」


 八木橋は2個目のトリュフを口に入れた。


「……ブラウニーもうまかったけど、こっちの方が甘くて口に溶けてうまい」


 満足そうに口の中でトリュフを転がして、ふと私に視線を移した。目が合って沈黙する。八木橋は口を動かすのも止めた。


「な……何だよ」
「お、お世辞ならいらないから」
「俺がお世辞なんて言ったことあるかよ……」


 八木橋は横を向いて再びチョコを舐め始めた。少し顔が赤い。トリュフに入れたアルコールで酔ったのかとも思ったけど、あの夜も親戚達と飲んだ夜も全く顔色を変えてなかったことを考えると多分、照れてるんだと思った。八木橋がカツ丼に手を付けるのを見ながら私も食べる。つい、期待してしまう。八木橋が手作りチョコに喜んでいるんだと、私を少しでも意識してるのだと。年越し合コンも指名も誤解だと分かった今、八木橋の態度を信じていい筈なのに、躊躇してしまう。カツ丼を食べ終え、再びトリュフに手を伸ばす八木橋。私もケーキに手を付ける。八木橋は口をもごもごさせながら私の空いたパスタ皿を取り、丼と重ねた。


「ピアス、似合ってるな」


 もう、辞めて?、と思う。そんな言葉……。

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