雪の足跡《Berry's cafe版》

『地方決勝も通過したから心配するな』


 八木橋からのメールだった。会場から真っ先に連絡をくれたんだと思う。県決勝の時のように歓声の上がる中、連絡をくれた。私のせいで怪我をさせてしまって心苦しくて、ずっと心配だった。でも無事通過してくれてホッとした。これで八木橋は全国大会に行ける。私は安心して肩の力が抜けた。

 その一方で、段々と遠くなる八木橋との関係に寂しくなる。県決勝の時には電話をくれたけど、今回はメールだった。初めての旅行で八木田橋の大きな手で抱かれたことが凄く遠く感じる。まだ2ヶ月と経ってないのに随分と前の出来事のような気がする。黙らないからとキスされたことも八木橋の部屋に泊まったことも全て昔のように思う。そうやって今までの出来事は過去になる。思い出になる。いつかこんなこともあったって笑って話すことが出来るようになるんだろうか。

 八木橋のメールを閉じて、スクールからのメルマガを開く。八木橋が菜々子ちゃんを教えている姿、菜々子にキスされて照れる八木橋。もう会うことはない。顔をみることはない。電話で声を聞くこともないと思うとため息が出た。


「ヤギ……」


 携帯の画面の中の八木橋の顔が滲む。画面に水滴も落ちて八木橋はもっと歪む。


「ヤギ、寂しい……」


 ポトリ、ポトリと落ちる涙はいつの間にか頬へだらだら流れる。鼻を啜る。肩をしゃくりあげる。泣いたってどうにもならないのに涙は止まらない。

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