雪の足跡《Berry's cafe版》

 帰宅してまっすぐにダイニングテーブルに向かう。隅にあるパソコンを立ち上げる。ネットにつなぐ。昨日から予選がスタートした。全日本スキー技術選全国大会。地方ブロック予選を1桁台で通過した八木橋は多分、参加している筈。八木橋には電話もメールもしていない。大切な試合を前に掻き回したくなかった。

 夕方になると予選結果がネットに上がる。地方を勝ち抜いた250人が昨日今日の予選で120人に絞られる。深呼吸してから、画面に表示された氏名を下位から見ていく。得点0の棄権者に八木橋の名が無いことにまず、胸を撫で下ろした。更に順位を目で追っていく。


「あ……」


 10位に八木橋の名を見つけた。全国で10位……。改めて八木橋を凄い人間だと思った。山からは引きずり下ろしちゃいけない。


「あら、八木橋さん凄いわねえ」


 母が私の背後から画面をのぞいていた。


「うん……」


 あれから母とは八木橋の話はしていない。お互い避けてきた感がある。これ以上八木橋の話をすれば、私が意固地になるのを見越したんだと思う。長年、私を見てきた母親の勘。あの時に私は八木橋について行こうと心の中で決めていた。この人しかいない。他の誰でもない。八木橋のそばにいたいって。でもまだ気持ちの整理が着かないままだった。本当に母をひとりにしていいのか、ひとりでいいと言う台詞は本心なのかって。

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