雪の足跡《Berry's cafe版》

 早朝、風呂に入りに行く。身を清めるように体を洗った。上がって髪を乾かしセットする。部屋に戻って欠けてないかネイルを見る。雪のシールは貼らなかった。ピアスもベリー色のにした。八木橋が不機嫌に雪の結晶を眺めそうで怖くて違うものを選ぶ。

 朝食会場に行って席に着くと隣のテーブルに小さな女の子がいた。何処かで見たことのある顔。父親の隣に座り、べったりと甘えている。向かいにいるのは母親。自分を思い出した。週末の食卓、父の隣に自分の椅子を並べて食事をした。ジュースや麦茶で乾杯した。穏やかで何処にでもある光景、普通の家族。ただひとりこの人だと決めた人と暖かい家庭を築きたい。一昨日、一気に順位を落とした八木橋。大きな怪我をしてなければそれでいい。酷く体調を崩してなければそれでいい。八木橋らしい滑りを見せてくれたらいい。ううん、無理せずに棄権したっていい。幸せなんて、想像してた大きなものじゃない。身近なところに何気なくあるものだってようやく気付いた。


「ナナコ、ほら、パパに食べさせてもらってばかりいないで自分で食べなさい」
「イヤ」
「ナナコ!」


 となりのご家族の会話。ナナコ、ナナコ……?


「あっ! 菜々子ちゃ……」


 思い出した、スクールのメルマガに載っていた女の子。八木橋の頬にキスをしていた子だ。思わず声を上げた私にご家族3人で私を見た。


「あ、いえ、その……。スクールのメルマガで、可愛いって」


< 164 / 412 >

この作品をシェア

pagetop