雪の足跡《Berry's cafe版》

 一度、近くのレストハウスに戻る。昨日までの成績が貼り出されているホワイトボードを眺めた。昨日の時点で40位だった八木橋とトップとの点差は70。300点満点を2本滑ったところで逆転出来る距離じゃない。突然、肩を掴まれた。


「来てたのか?」
「ヤ……な、何してんのよ」
「トイレ」


 八木橋。目を合わせるのも躊躇してホワイトボードの成績表に目をやる。それでも視界の隅に八木橋のウェアが見えた。


「ユキこそ何してんだよ?」
「た、たまたま来たら、こんなのやってて、ヤギの名前があるからびっくりして……。たまたまだからねっ!」
「へえ。それはそれは奇遇なコトで」
「応援に来たんじゃないからっ!」
「ほう?」


 こんなところまで来て、覚悟を決めた癖に動揺して八木橋に突っ掛かる。でもずっと連絡を絶っていたのに、変わらない八木橋の態度に胸が詰まった。


「……順位、落としたでしょ?」
「はあ?、落とした??」
「一昨日、一気に59位まで落ちたじゃない。ネットで見たわよ」
「ああ、あれ。シード」
「シード?」
「去年決勝まで残った60人が本選から加わったからだぞ。人数見なかったか? 180人に増えてただろ?」


 八木橋が10位で通過した予選で250人から120人に絞られた。そこに去年決勝進出を果たした強豪60人が加わり、八木橋は59位に押し出された。
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