雪の足跡《Berry's cafe版》

 そういえば酒井さんが決勝まで残った選手は予選パス、って言っていた。勘違いした私は、まだ八木橋の方を向けずにホワイトボードの方を向いていた。


「……なあんだ。怪我した訳じゃないんだ」


 勘違いしたのが恥ずかしくて八木橋を見れないんじゃない。


「……体調崩した訳じゃないんだ」


 見ていた成績表の『八木橋岳志』の文字が滲んでいく。八木橋が無事だったのもある。ホッとしたのもある。でもそれだけじゃないのは分かっている。こうして何も無かったように再び八木橋が構ってくれるのが嬉しかった。


「心配して来てくれたのか?」
「……」


 頭の中で、心配して来たんじゃない、って悪態をつくけどしゃくりあげて言葉を出せない。ボロボロと涙を零して、もっと八木橋の方を向けなくなって俯いた。


「アホ……。俺をどんだけ重傷者だと思ってたんだよ」


 頭にふわりと暖かいものが触れた。そのままぐりぐりと撫でられる。


「この点差じゃ上位には食い込めねえけど」


 皆このために合宿組んだり公認デモにコーチ頼んだりしてるから厳しいけど、と前置きし、頑張るから、と言った。
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