雪の足跡《Berry's cafe版》

「それでもいいか?」
「……」
「それでユキの親父さんも許してくれるか?」


 私は言葉が出なくて、ただ、頷いた。山側に並んでいた八木橋は止めていた手を動かし、ストックを突く。くるりとUターンして私の前に来る。あの時みたいに私の板を挟むようにして進み、私に近付いた。八木橋は自分のゴーグルを上げて額に動かし、私を見た。そして私のゴーグルに触れ、そっと外すと手に持った。


「気が強い癖に泣き虫だな」
「だって……余裕ない……いつも、いつも」


 八木橋は膝を曲げたのか、私の顔の真ん前に八木橋の顔が来る。徐々に近付き、私は目を閉じた。瞼で押し出された液体が両頬を伝う。

 少し乾いた唇。そっと触れて、そっと離れた。


「……本当の恋人は唇にチューするんだろ??」
「へ?」
「コドモ相手にムキになりやがって……アホ」


 八木橋は持っていた私のゴーグルをひょいと私に投げ、自分もゴーグルをはめると笑いながらストックを突いてバックした。


「お先!」
「ヤギ、狡いっ」


 挨拶するように片方のストックを上げ、下りていく。


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