雪の足跡《Berry's cafe版》


 レストハウスのカウンター席。ガラスの向こうではスキーヤーやボーダーたちが白に輝く斜面で滑り躍る。久しぶりのゲレンデ。今日はネイルにも雪の模様をいれた。手のひらをガラスにかざして、眺める。

 かたん。物音がして手元に視線を戻した。


「あ、ごめんなさい。すぐに拭きますから」


 手元のグラスを倒し、誤って水を零してしまった。水は隣の席に流れている。手元にあった紙おしぼりで拭こうとしたら、おしぼりが水分を吸い取らず、さらに水を押しやってしまい……。


「やっ……」
「ああっ!」


 私の視界は真っ白になった。だって押しやった水が携帯を濡らした上に、慌てた手で携帯を床に落としてしまったから。


「おいっ」
「すみませんっ!」


 隣にいた男性は手を伸ばして床に落ちた携帯を取り上げた。二つ折りのそれを開いてボタンを操作するも、画面を見つめる彼の表情は渋い。


「あ、画面がチカチカして……あれ、真っ白だ。げっ、壊れた」
「すみません、どうしよう」
「あーあ」


 私の白い視界の中で彼の赤いスキーウェアがゆっくりと動く。そのウェアの胸には“スキースクール”の文字が白で刺繍されていて。ということはおそらく彼はスキーのインストラクター。


「すみません、弁償します」
「弁償?」
「それ、無いとお困りですよね。すぐに……」
「麓のショップまで1時間以上掛かるし、俺これから仕事だし」


 私が買いに行くにも携帯やスマートフォンの類は本人確認か委任状が必要だったような……。修理にしろ代替機を借りるのだって、コドモのオツカイって訳にはいかない。

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