雪の足跡《Berry's cafe版》
八木橋は昼過ぎの新幹線で東北に帰っていった。
行為をした後の八木橋は初めてした時と同じく、私の前髪を梳いては私を見つめた。自分の部屋、アロマディフューザーのファンの回る音と湯気を吐く音。ただ笑顔を浮かべる八木橋。私は照れ臭くて目を伏せるように視線を足元にやる。無造作にたぐまる掛け布団からはみ出す自分と八木橋の足が見えた。
「スキー場の営業期間、3月いっぱいだから」
「あ、うん」
「シャトルバス、浦和経由だし」
「バス……?」
「宿泊すればタダだし、車出さなくて済むだろ」
髪を梳いていた八木橋は再び覆い被さり、首元に顔を埋めた。何かを言いたげに息を吸ってるけど無言で。いつも見上げてる自分の部屋の天井、その視界の隅に八木橋の髪や肩がある。明るい部屋、八木橋の体が見えて、恥ずかしくて背中に手を回すのも躊躇した。
「痛っ! ちょっとヤギっ」
八木橋が私の首を噛んだ。
「空気読めよ!」
「透明なんだから読める訳無いでしょっ! カラースプレーで字でも書いた訳??」
体調次第で無理しなくていいけどよ、と顔を埋めたまま呟いている。